Steve Jobs 氏の成功から学ぶ
本稿はその発売前に書いているのだが、Apple のタブレット(iPad)は同社史上最大の賭けとなりそうだ。同製品は Mac(もしくはいかなる PC)が採り入れたコンセプトよりもアプライアンス中心の未来を予想している。そして、資料を見る限り、それは人々が望んでいたものに非常に近い可能性が高い。さらに、同製品は Apple が Microsoft より優れている理由も示している。
しかし同社は、変化の兆候を示すことで自社の Mac、iPod、そして iPhone も含めて収束へと向かう市場を失速させる可能性もある。市場はこれらの新製品が好ましいものになるまで失速し、その間に他社が出てきて市場リーダーに取って代わる可能性もある。
これはまさに、変化を促す会社であり続けることの極端なリスクを示唆している。しかし、今よりはるかにパワフルになることの潜在的なメリットは、そのリスクを冒すに値するものだ。そして、Apple は自社が頂点に立っているときにそのリスクを冒すのだ。
通常は、若い社員が多い企業の方がそのようなリスクを進んで冒すものだと予想される。そして、古い企業の方がリスクを回避する傾向にあるため、若い会社が高い実績を上げてそれらに取って代わるケースが多くなる。
Apple と Steve Jobs 氏がそのような事態を静かに待つことは明らかにないので、われわれは、このことについて探求すべきだろう。
● 老化する企業
若い企業に対し、企業が老化していくと起こるように思えることの1つがリスクを回避する傾向だ。これは、幹部が年を取るとキャリアを終わらせるようなミスを取り戻すための時間や能力に限界が生じるという感覚につながるものだ。これを回避すればリスクも回避できると信じることで主要な判断が回避されてしまう。
ここ数年企業各社を観察してきた筆者は、これが生じる結果を正確に評価するものでないだけでなく、実際には会社で生じるリスクを増やしていると考えている。これは、悪い判断を迅速に特定して間違いを修正するのではなく、それらに異議が申し立てられるのを回避する行動に力が入るためだ。
判断を下さないことや、下された判断を完全に支持しないことは、いずれも過ちになりえる。このような間違いこそ、Apple や Microsoft がその初期に Xerox のアイデアの恩恵を受けられるようになった要因なのだ。判断を回避したり、十分なリソースを提供しないと、間違ったところに簡単に責任が向かうことになる。だが、会社をダメにする要因はこれらであり、会社がダメになっても責任を取らされ解雇された人々には、もうそれはどうでもいいことになる。
● 逆進化型マーケティング重視の中止
興味深いと思えるのは、企業も「最適者」生存の進化プロセスを経て成功することだ。しかし、当初の何が正しい行動だったか理解できないことは多い。
その結果、老化するにつれて企業は自社を成功に導いた構造そのものを壊していくいくように思える。無駄のない構造で素早く動いていた企業は官僚的で動きが鈍くなる。素晴らしい職場環境を特徴としていたところは、それを実現していた給付金や協調環境をコスト削減の目的で消滅させてしまう。そして、信頼の高かったところは、短期的な売上成長を促進するためいずれその信頼を捨ててしまう。
さらに、企業が老化していくと自社製品のマーケティングを助けて会社を成功へ導いてきた人材が会社と疎遠になるほか、マーケティング関係者には後進の指導があまり得意でない傾向がある。その最も顕著な例が Intel だ。同社のマーケティング部門は Dennis Carter 氏の指揮のもと技術業界有数の組織だったが、Dennis が後進を全く指導しなかったためダメになってしまった。
ここ数年、筆者は素晴らしい マーケティング幹部が後進を指導するところを見たことがないが、これは市場の過剰競争が原因なのかもしれない。しかし、これはマーケティングのスーパースター退社後も企業がうまく生き残るためには取り組む必要のある問題なのだ。
Apple は90年代に破綻寸前に追い込まれたが、それを救ったのは同社を救済できる Steve Jobs 氏を復帰させたことだった。同氏はその若さを反映するだけでなく、優れた判断を下し、その判断をうまく活用し、Apple のユニークな特徴を売り込む方法の理解者として再評価を行った。
結局は、製品を特別なものにしている部分を買い手が評価しなければ、特別な製品があろうとなかろうと関係ない。そこを理解するには「The Presentation Secrets of Steve Jobs」(Steve Jobs 氏によるプレゼンテーションの秘密)を読むと良い。
● Apple の明確な特徴
老化が進み、能力が落ちていく企業が何とか良い判断を下せるようにするため、Steve Jobs 氏は大量の過ちに埋もれてしまわないよう Apple の複雑な部分を大胆に切り捨てた。同氏は、悪い判断を良く見せることに重点を置くのではなく、実際に成功する判断を下すことに重点を置いた。さらに同氏は、Apple が行動して実行する能力を建て直すため、NeXT と新人を中心に経営陣改革も行った。
その結果、彼らは新しいタブレットのように革命的な可能性を秘めたものを投入したり、そのポテンシャルを発揮させることができている。この方が、アイデアが自分たちの失敗でないもっともな言い訳を考えるのに重点を置くより格段に良い。
これまでは、それが我が身に跳ね返ってくることを認識することなく、あまりに多くの企業が責任をうまく転嫁することに重点を置いてきた。だが、そもそも成功しているなら責任を転嫁してばかりいる必要もない。
● Apple の長期的リスク
Apple を高く評価する一方で、その成功が同社を改革できたマーケティング指向の最高経営責任者(CEO)の存在に負うところが大きいことも忘れてはならない。集団として考えると、Steve Jobs 氏のスキルセットを持つような人々は後進の指導があまりうまくない。さらに、Steve は特にこの部分が不得手であることで有名だ。
その結果、いずれ Steve が去れば、Apple は普通に老化していく会社へと再び戻り、ここまでの成功を可能にしたその真髄を失う可能性がある。
これもまた教訓である。企業は、その成功を確実にするものや、それを守る方法を学ぶだけでなく、年を取っても重要なスキルが失われないよう後進の指導システムを組織の中に組み入れる必要もあるのだ。
● まとめ:Apple の教え
Apple の成功は、老化のひどい会社を徹底的に壊し、当初の成功へと導いたメリットを取り戻せるよう同社を改革したのが原点だ。新しい Apple iPad はごく少数の企業しか示すことのできないレベルの実行力を反映しており、手本であり、警告でもある。
潜在的責任を限定しながら必要なリスクを冒す方法の例であり、永遠の存在になれるポテンシャルがあっても、その素晴らしい企業を当初作り上げた偉大な人材が永遠の存在でないためポテンシャルが失われてしまう可能性もあるという警告でもある。Apple は両方の教訓を教えてくれているが、意図があるのは前者だけだ。
この新型タブレットは Steve Jobs 氏にとって最後の「社運を賭けた」判断になる可能性が高い。このようなことはそれほど頻繁にあるわけではないし、われわれは、同製品の売れ行きだけでなく、それを作り出すために必要だったことからも何かを学ぶべきなのだ。Apple は、老化している会社としてはまだ今も、自社の未来を確実にするために必要なリスクを犯している。そして、そここそわれわれ全員が Apple 最新のガジェットの購入に向けて高く評価できるポイントだと筆者は思う。
http://japaninternetcom.pheedo.jp/click.phdo?i=b923a3fcd51d949a203782345e144b04
「徒の火宅」という慣用句があります。
儚く悩み多いこの世。。という意味らしいです。
そういわれれば、すごく儚いような気になってきますね〜。
何にしても先人の残して知恵はありがたいものです。
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